信天翁通信(あほうどりつうしん)1-8

ahodori tsushin

信天翁通信(あほうどりつうしん)7 仕事にまつわるいろいろ(その2)

テレビ部へ移り、企画と脚本専属になった最初の脚本の仕事は土曜ワイド劇場『声』ですが、助監督時代とまたがっている仕事に、『ご存知!女ねずみ小僧』があります。

プランニングでは、メインライター 加藤泰、メイン監督 工藤栄一だったのですが、すったもんだのクランクインの揚げ句、第二話から突然私が脚本に駆り出された。小川さんは美しい盛り、セリフも動きもキレが良く、アシスタント役の田中邦衛さんの役がなぜか役者が変り、なんと三国連太郎さんがおいでになった。アシスタントではなく黒衣(くろご)である、という解釈をなさり、ホントに歌舞伎の黒衣姿で登場、大いにコミカルにおやりになるのだが、市川昆の映画『青色革命』のオカマ青年で大好評で、それのイメージがあるのか、ハッスルするほどオカマになり、小川さんたちから疑問が出たようです。

訳の分からない脚本直しが行われたり、小川さんの女中役の野村昭子さんや町方同心役の菅貫太郎さんが降りた(降ろされた?)り、トラブル続きだったのが安定したのは、小川さんと仲良しの井上昭監督、役者扱いの上手い大ベテラン松林宗恵監督が来てからで、以後私は第十八話から最終回第三十一話まで5本、まあ、メインライターになってしまいます。

仕事は楽しかったですね。こういうコミカルで御伽噺のタッチの作品は、アイデアが勝負だから楽しい。またテレビ部へ移って早々、あるプロデューサーがNHKへ紹介してくれて『早筆右三郎』という、江守徹がメインの瓦版屋のシリーズを書かせてもらいました。これも、新聞記者と編集部と販売店が一つになったようなグループの話で、楽しく書けました。鎌倉の縁切り寺を使ったのと、滝沢馬琴もエッセイで取り上げているUFOを題材にしたのと二本です。縁切り寺のはシリーズで一番視聴率が良かったとかで、原作者の小山内美江子さんから。「ツイてる!」と握手された記憶があります。

テレビ部での仕事へ戻ります。

『声』のあと、『顔』『犯罪広告』『紐』『種族同盟』と松本清張作品が続き、このシリーズに客が付き始め、視聴率20%に迫りだしますが、『声』で原作にないクライマックスを仕組んだのが枷になって来たのには苦労しました。松本清張の味と微妙に離れる、と感じたのですが、土曜ワイドという枠の性質上、局からはそれが要求される。言わば二律背反的悩みです。それと同じ苦労をしたのは、戸板康二の中村雅楽シリーズです。

歌舞伎の老優を主人公にしたユニークな連作で、これは松竹ならやれるんじゃないか、と企画したのですが、脚本作りは苦労しました。原作はすべて短編で、二時間ドラマに足らない内容です。そこで事件の出だしは『車引殺人事件』、『車引』の舞台で、牛車を割って出てくる大ガタキの時平(しへい)が、車の中で死んでいた、それを使い、全体のストーリーは長編『松風の記憶』、クライマックスとラストは『鷺娘殺人事件』、これで作りました。題名をどうしようか、と思っていたら、またあの井塚英夫プロデューサーが大技をふるいます。なんと『名探偵雅楽登場!車引殺人事件つづいて鷺娘殺人事件』。あっ、と驚きましたね。

えっ、と不安になったのは、舞台で殺人が起こった話に劇場は貸せない、と歌舞伎座が急に言い出したことでした。これは、新橋演舞場が近々取り壊して新しい劇場にするから、と貸してくれて解決。次に、あっ、と私も驚き、原作者の戸板さんが驚喜したのは雅楽役のキャスティングでした。すでにテレビの一時間ドラマとしていくつか作られ、雅楽役は市川中車さん、小納戸容(こなん・どいる)のペンネームで著作もあるこの人と、中村芝鶴さんがやっていたのへ、中村勘三郎(十七代目)という大看板を持ってきたのです。バリバリの現役の役者、それも大スター過ぎるので、原作と微妙な誤差がありましたが、結構な雅楽でした。

おかしかったのは、これだけ時間かけて撮影して、たった一回、二時間放映するだけか、とご不満なご様子でしたが、テレビの視聴率1%は東京だけで6万世帯、20%だと1400万人以上が見ると聞かさると、俄然張り切り始められたことです。

勘三郎さんとの共演、ということで相棒の新聞記者に近藤正臣、刑事に山城新伍、と主役クラスが出てくれ、殺される悪役に伊藤雄之助、犯人役で鷺娘を踊りながら死んで行くヒロインに波乃久里子、実にいいキャスティングになりました。もうひとつおかしかったのは、雄之助さんが時平役で殺され、急ぎの代役を雅楽の勘三郎さんがやる、という設定の、その青隈の化粧が雄之助さんの方が立派だ、と、何度もやり直させ、しまいには出るのがイヤだ、と駄々をこねだしてプロデューサーが閉口した、いかにも勘三郎さんらしい、ほほえましいエピソードもありました。

この作品は好評で、すぐ次が作られます。『名探偵雅楽再び登場・お染宙吊り殺人事件つづいて奈落殺人事件』。これは短編の『奈落殺人事件』をメインに、トリックを創ってプロットも創ったのですが、やはり『松風の記憶』のような太いストーリーが入らないと、短編だけでは骨格が弱くなるようです。これも新橋演舞場で、その奈落を使って撮りましたが、劇場内の理髪店の椅子と鏡を使って右と左を取り違えるメイン・トリックがあり、これだけは演舞場になく、歌舞伎座の理髪店で撮った記憶があります。

これは勘九郎さん(五代目)が出演しました。立女形役に中村雀右衛門さんに出て貰えと勘三郎さんが言ったので、マネージャーさんが行ったら出渋って、悲劇的な母の役があるのを、この役だったら出ると言い、マネージャーさんが呆れ顔で「母だと出るんだそうです」と報告。女形のヒトだからTVドラマでも女の役をやるつもりだったらしい。いかにも歌舞伎のヒトらしい逸話ですね。あるいは拒否反応の微妙な表示だったのかも。なおその母の役は、淡島千景さんでした。

第三作。『名探偵雅楽三度登場・幽霊劇場殺人事件』では、遂に新橋演舞場が取り壊され、岐阜の瑞浪(みずなみ)にある古い芝居小屋を使いました。原作が『加納座実説』という子役の幽霊が出る地方の劇場のお話です。『グリーン車の子供』という名短編も使っています。この3作で雅楽シリーズはおしまい。劇場が使えないのではしかたがない。このシリーズは歌舞伎を知らないと、書きにくい。原作の使い方、じつに難しいのです。

さて、必殺シリーズは次の新しいシリーズの始動が始まっていました。この『新・必殺仕事人』には山田五十鈴さんの三味線屋おりくの息子として、中条きよしさんが出ることになり、新メンバーが揃い踏みになります。それは次回に。

また硫黄島で戦死した、オリンピック馬術金メダリストのバロン西を描いたドラマで、当時染五郎だった松本幸四郎さんが主演したときのユーモラスなエピソードなども。