シナリオを書いてみよう (その1)

信天翁通信(あほうどりつうしん)4

 

自分は映画ともテレビとも関係ない。観客として関わるだけだ。シナリオなんか書かない。書けない。関係ない。

これが普通の感じ方、考え方でしょう。

また、ちょっと珍しい仕事だな、と思うこともあるでしょう。

例えばバーなんかで隣り合って、こっちがシナリオ作家だ、と判ると一瞬話がとぎれる。まじまじ見られてしまうときもある。

話の接ぎ穂で会話を続けることになって、どんな仕事だろう、という感じの質問になる。ここでの代表的な問いはどんなか紹介しましょう。

1. セリフも全部書くんですか?

2. 1時間のドラマは1時間で、30分のドラマは30分で書くんですか?

3. どうして話を思いつけるんですか。不思議です。

こう書いてみると分かってないなと思ってしまうかも知れません。しかし、これ、かなりシナリオの本質に触れてるんです。

1. セリフはもちろん書きます。シナリオの大切な仕事です。この質問はじつは、セリフにリアリティがあるかどうか、ドラマにリアリティがあるかどうか、というポイントを無意識に指摘しているのです。

2. 1時間のドラマを1時間で書けるわけがない。どんなに速筆でも。小津安二郎は2時間のシナリオを書くのに1年かけています。この質問はドラマに時間に感じているからこその質問だと思います。そう、ドラマは《時間》です。絶対的に過ぎていく時間こそがドラマのベースです。

3. どうして話を思いつくか、発想するか。これはドラマには必ずストーリーがある、と感じているからですね。思いもよらない展開は、小説にもドラマにも絶対必要です。プロットと呼ばれる、進行する止まらない展開。

3つの質問が、シナリオ、ドラマというもののを本質に無意識に触れている、迫っていることが、お解かり頂けたでしょうか。
まぁ初対面の会話からは、そこまで話は深まらない。映画やテレビドラマについての雑談、好き嫌いなどで盛り上がっておしまい。でも交流して会話が深まる。こちらも具体的な映画やテレビドラマの話をする。また自分のやった作品の話もする。

ここいらで、関西、ことに大阪では必ず出る質問がある。

「それで、年、ナンボぐらいになりますか?」

ずばり、稼ぎのことになる。大阪以外ではあまりそこまで話題にしませんね。

何回かそんな目にあって、友人の大阪人にその話をしたら大いに笑って、そして「それでナンボになるんや」と来ましたね。これでまた大笑いになりました。

さて、そこまでの会話に至っても、シナリオを書いてみたいな、と言い出す人はあまり居ません。いや殆ど居ない。むしろ、映画の話が深まったら、映画撮ってみたいな、という人は案外多い。

なぜだろう?

きっと、映画はカメラがあれば撮れるし、撮れば写る。人や、物や、景色が写る。しかし、シナリオを書くというのは結構技術を要するだろう。そう無意識に感じているからではないか。

書くという行為の中では、日記とか自分史などといった《記録》は取っつきやすいと、感じるものです。

芝居を書くのもドラマを作る、という点では同じですが、設計、プランニング、構成、シーン分けなどという取っつき難い技術が、シナリオには沢山要求されるように思えるのでしょう。

芝居という、舞台に限定された表現、その限定の面白さ、目の前の生きている人間がドラマを演じる面白さは取っつきやすい面があります。いいキャラクター、いいドラマを発想できれば、戯曲はシナリオより書きやすいかも知れません。

シナリオの難しさは、場所と空間、そして時間をどこへでも飛ぶことが出来るという、映画という表現の一番得な美味しい在り方、それを組み立てて短いので30分、長くてだいたい120分から180分という《時間》の中に収めなければならない。つまり、時間、空間を超えられる自由と引き換えなのですね。

そして、シナリオから映画を創って行くとき、絶対に現実を、その映画が撮られる現代という、同時代性を超えられない。映画は連続写真であり、フォトグラフィー、あるいはビデオというものは目の前の現実しか写せないからです。その時代のリアリティを超えられない。

例えばアニメですら、初期のディズニー、フライシャーの時代と今ではまったく違う。これもその時代のリアリティを超えていないのです。『イエローサブマリン』は、『白雪姫』『バッタ君 街に行く』の時代には作れなかった。

ということで、次回はいかに《映画》は生まれたか、いかにシナリオが生まれたか、を語ってみましょう。

そして、シナリオを書くという技術なんか要らないよ、カンケイないよ、という声にはこう答えましょう。

ケータイやスマホで簡潔で面白い話を語る、それが技術なら、その技術の芯にはシナリオと同じ発想があるよ、と。また、映画やテレビドラマが、面白く、深く見られるようになるよ、と。

以上、第一回。

なおこのシリーズは、私がシナリオライター志望者に書いた『シナリオを書く』(シナリオ作家協会発行)という本を、一般読者向けに柔らかく解きほぐしたものです。

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